むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • ミトコンドリアに薬剤を届ける技術

    先日の予防医学の講演で、ミトコンドリアを元気に保つことが健康維持にとって重要だという話をしました。そのためには「抗酸化」と「抗糖化」が鍵になります。ただし、それを達成する方法は一つではなく、さまざまなアプローチを組み合わせる方が効果的だということも説明しました。

    そんな中、とても興味深い動画を教えていただきました。北海道大学薬学部 ナノ医薬品創剤学分野の山田勇磨教授の講演です。(参考:北海道大学SDGsサイト

    私が大学生だった頃、熊本大学の前田浩先生(微生物学教室の教授)が、DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)という分野で画期的な研究をされていました。抗がん剤を肝臓のがん細胞だけに集中的に届けることに成功し、「日本人でノーベル賞に一番近い」と言われ続けた方です。残念ながら数年前にご逝去されました。(参考:西日本新聞記事

    今回の山田教授の講演も、まさにDDSの最新成果についてでした。前田先生の時代から約30年、技術は驚くほど進歩しており、薬剤をリン脂質の二重膜で包み、ナノサイズのカプセルにして体内に届けるという方法が開発されています。このナノカプセルは細胞膜を通過し、細胞内のミトコンドリアにまで薬剤を届けることができるそうです。実際、蛍光ラベルされた薬剤がミトコンドリアに届いている様子を顕微鏡で確認したという報告もありました。

    さらに、コエンザイムQ10をナノカプセル化して肝障害を持つマウスに投与したところ、肝機能障害が著しく改善したというデータも示されました。普通にコエンザイムQ10を摂取しても、このような効果は得られないそうです。技術の進歩に本当に驚かされます。

    また、ナノカプセルの表面に特殊な加工を施すことで、がん細胞のミトコンドリアだけに薬剤を届けることも可能になるそうです。これにより、標的細胞のみを狙い撃ちし、副作用を最小限に抑えながら治療効果を最大化できる時代が近づいています。

    本当に、すごい時代になってきました。科学の可能性に、ワクワクが止まりません。