インフルエンザやコロナの患者さんはずいぶん少なくなっていますが、普通の風邪や胃腸炎の患者さんが増えています。胃腸炎は必ずしも食中毒とは限りません。特にノロウイルスは感染力が強く、体力がある人でも簡単に感染します。家族内感染が多く、特に子どもから親へと広がるケースがよく見られます。トイレ以外の場所で嘔吐すると、処理中にウイルスを吸い込んでしまうことがあり、感染予防が難しくなります。
病院での感染対策としては、嘔吐物の処理の際に、拭き取る前に次亜塩素酸(家庭では薄めたハイターやミルトンなど)をスプレーし、新聞紙やティッシュなどで覆ってから処理します。ペット用のトイレシートなどは吸水力が高く、処理に便利です。処理をする人は使い捨て手袋を着用し、処理後は必ず手を洗いましょう。なお、アルコール消毒ではノロウイルスを除菌できません。
この話題を書いていて、嘔吐恐怖症について思い出しました。自分自身は何ともなくても、周囲の人が嘔吐するのを見て気分が悪くなることは、誰にでもあると思います。しかし、まだ何も起こっていないのに「家族(家庭で)や友人(学校で)が嘔吐したらどうしよう」と不安になり、パニックのような状態になる場合は、不安障害の一種と考えられます。通常、不安障害にはSSRIという抗うつ薬を使用します。ところが、困ったことにSSRIは高頻度に飲みはじめの数日間ムカムカする副作用があります。それでは、ただでさえ吐き気に対する恐怖心があるのに飲んでもらうのが困難な場合が多いです。そこで、いろいろ検討した結果、私の経験では、嘔吐恐怖にはオランザピンやミルタザピンといった向精神薬が有効な印象です。これらの薬は吐き気を抑えたり食欲を増進させたりする作用があり、嘔吐に対する精神的ダメージを軽減する効果があるように感じます。
感染性胃腸炎で受診される患者さんには、当院ではほぼ漢方で治療を行っています。嘔吐や下痢の初期には黄連解毒湯、腹痛には桂枝加芍薬湯、発熱や悪寒を伴う場合には葛根湯を併用します。数日経っても改善しない場合は半夏瀉心湯を用いることが多いです。これらの漢方薬は錠剤やカプセルの形でも処方できるため、漢方が苦手な子どもでも比較的服用しやすくなっています。一方、胃腸炎に対してビオフェルミンのような整腸剤やガスターのような胃薬を使用する西洋医学的な治療では、なかなか改善せず長引く印象があります。