むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • 勇気ある撤退

    思いがけない雨となり、肌寒い一日でした。帰宅途中、自衛隊前の桜の木の下でブルーシートを敷いて花見をしている団体を見かけました。かなりの雨が降る中、みんな傘もささずにうつむいて食事をしており、まるで宴会というより罰ゲームのような光景でした。「よくこの天気で決行したな」と驚きつつも、少し気の毒に思いました。

    「勇気ある撤退」という言葉があります。登山家があと少しで登頂できそうな場面で、悪天候に阻まれた際、無理に進むか、あえて引き返すか。この決断は命を左右することもあり、冷静な判断が求められます。これはビジネスの世界でも同じで、時間や資金をかけたプロジェクトがあと一歩のところで頓挫したとき、強行するのか、綺麗さっぱり撤退するのかという経営判断が問われます。

    このとき厄介なのが、「もったいない」という心理です。「ここまでやったのに諦めるのは惜しい」と思うのは当然ですが、その気持ちに引きずられて無理をすると、大きな損害を被ったり、信用を失ったりすることもあります。だからこそ、感情に流されず、冷静に状況を見極めることが大切なのです。

    花見の話に戻ると、せっかく用意した花見弁当や飲み物を無駄にするのは「もったいない」かもしれませんが、時には撤退する勇気も必要だったのではないでしょうか。人手不足のなか、「あの会社に入ると、雨でも花見に強制参加させられるらしい」という噂が立てば、会社の存続にも影響しかねません。

    病院経営に関しても、「勇気ある撤退」の難しさを感じる場面が多々あります。病院経営者であれば誰もが経験していることですが、医療行政は厚生労働省の方針に強く誘導されます。「保険証を廃止し、マイナ保険証を導入する」と国が決めれば、どんなに反対しても避けられません。しかし、過去を振り返ると、国の方針に従って進んだものの、数年後に梯子を外されたケースも少なくありません。

    現在も電子処方箋やリフィル処方などが推奨されていますが、多くの医療機関が慎重な姿勢を崩さないのは、こうした過去の経験があるからでしょう。実際のところ、これらの施策にどれほどのメリットがあるのかも不透明なままです。国の方針に振り回されず、慎重に判断しながら進むことが、今後の医療機関に求められる姿勢なのかもしれません。