むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • 高齢者の糖尿治療は厳密すぎないこと!過ぎたるは及ばざるが如し

    土曜日は夕方5時からWEB講演会で勉強でした。今回は糖尿病エキスパート・フォーラムという会で糖尿病治療の最新の話題が満載でした。WEB講演会ではチャットのような機能で演者の先生に質問できるのですが、質疑があまり出ていなかったので、私のかねてからの疑問を東京の先生に質問してみました。それは、高齢糖尿病患者さんで眼科に行くと「網膜症になっているから、血糖をもっと下げてもらえ」と言われるが、内科側では高齢者の糖尿病治療は血糖を<下げすぎないこと>がとても大事で、低血糖を起こすと心血管イベント(心筋梗塞など)が増えてしまうことがわかっており眼科の先生が言うとおりにおもいきって血糖を下げることはできない。そもそも、網膜症を発症した患者さんの血糖を下げることは意味があるのでしょうか?という質問です。

    答えは、私の思ったとおりでした。すなわち、眼科の先生がみているデータは血糖を厳格にコントロールするほど網膜症の”発症”を抑えるというもの。それは正しい。しかし、一旦網膜症を発症した患者さんの血糖を厳格にコントロールしても網膜症の”進展”を軽減するデータはない!とのことでした。やっぱりそうかと納得です。なぜなら、網膜症というのは、糖尿病を発症して10年以上たって発症する合併症です。したがって、今の血糖ではなく、過去10年分くらいの血糖の推移が影響しているわけです。網膜症になったからと言って、慌てて厳格治療をしても意味はないのです。座長の先生が、眼科学会と糖尿病学会の間の連携が十分取れていないので、今後のガイドライン作成に盛り込みたいとおしゃっていました。

    こう考えると、合併症のない時期の血糖をいかにきちんとコントロールするかが非常に大切だとわかります。糖尿を10年以上放置したり、薬は飲んでも食べ過ぎ、運動不足を解消できず高血糖を放置すれば、あとになってつけが来ます。逆に、80歳過ぎてヘモグロビンA1cを6以下に下げるのは危険です。若いときに頑張って下げるのは重要ですが、歳をとったら基準を緩めるべきです。

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  • 冬は乾燥肌が痒くなる季節です

    冬は乾燥するので肌が痒くなる季節です。私も乾燥肌であちこち痒くて仕方ないです。歳を取ると皮脂が欠乏して潤いがなくなるのです。お風呂でも肌がかゆいと石鹸をめいっぱい使ってゴシゴシしたくなりますが、それは皮脂欠乏を悪化させるので逆効果です。乾燥肌がかゆい人は、お風呂であまりゴシゴシしないで、そっと汚れを流す程度にしておくことが大切です。

    漢方で、乾燥肌は陰虚といいます。陰とは水分のことで水分が不足していると言う意味です。そして、陰を補う補陰の処方があります。乾燥肌がかゆいときは陰不足だけでなく若干発赤を伴うので、漢方的には熱を帯びていると考えるのですが、陰が不足すれば相対的に陽が亢進するというバランスの問題です。そこで漢方治療では陰を補う四物湯と清熱作用のある黄連解毒湯の合剤の温清飲をよく使います。当帰飲子というかゆみ専用の処方もあります。それでも痒みが取れない場合、保湿クリームにかゆみ止め(抗ヒスタミン剤)を混ぜて塗ったり、抗アレルギー剤を内服する方法もあります。

    もう一つ面白いのは漢方入浴剤です。当院向かいの凌雲堂薬局では漢方薬(生薬)を煎じてお風呂に入れるタイプの本格的な漢方入浴剤を作っています。その漢方ぶろに入ると肌はすべすべになるし芯から温まります。煎じた漢方薬は飲むこともできる品質です。ぜひお試しください。

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  • ポリファーマシーの問題

    当クリニックのあたりは小高い丘になっているため、朝は気温が低く氷点下でした。霜が降りて今年一番の寒さです。テレビでは大雪のニュースとコロナ拡大の話題ばかりやっています。冬だから当たり前です。そんなに騒ぐことではありません。夏に雪が降ればニュースですが、この時期、雪が降ったと一日中ニュースで言うのは、よほどネタがないのでしょうか。一方、経済に目を向けると、日経平均株価はこの10年でも経験したことない高値圏に達しています。実体経済と乖離した高値は、世界の金融機関がコロナ対策のため市場に資金を投入した結果、お金が余って仕方ない状態になっているからです。企業は業績も悪く、年を越せるか不安なところもたくさんあるのに、株価だけが上がっています。明らかにマネーゲームになっているので、今このタイミングで素人が調子に乗って株式に手を出すのは危険だと思います。

    さて、今日も帰宅後はWEB講演会に参加しました。演者は心臓血管研究所の山下先生。とても頭のいい先生で、話が面白い。この先生の講演を聞きに何度も東京へ足を運んだことがあるのですが、今日は自宅からパソコンを通しての聴講でした。講演が終わって、質疑の際に高齢者に対するポリファーマシー(多剤処方)に対する先生の意見を求められたところ、山下先生のお答えは、素晴らしかったです。長期予後(何年も先の状態)を改善するための処方から切っていく。そして、QOL(生活の質)を維持するのに必要な薬は残す。例えば、コレステロール、血糖、血圧などの薬は切っても良い。コレステロールが上がっても、血糖が上がっても何も起こらない。こういう治療は20年以上先にやってよかったという結果が得られるものなのです。

    私も同じ考えで、80歳も超えて来たら、血糖やコレステロールの値はあまり厳密に管理しないでいいと思っています。それだけ長生きしたご褒美に、美味しいものを食べてほしいです。患者さんは、若いときに医者から厳しく言われたことをいつまでも金科玉条のごとく覚えていて、コレステロールなどの数値が上がることをすごく気にしますが、多剤併用(10種類近い薬を毎日飲むこと)のほうがよほど危険です。

  • 附子(ぶし)で冷えと痛みを取る

    毎朝、日の出前に歩いて出勤するのですが、今朝は雪が舞っていました。熊本市内では初雪だったと思います。寒いと、体のあちこちが痛むという患者さんが増えます。リウマチも冷えると痛みますが、それ以外でも冷えと痛みは密接に関係します。西洋医学では痛みにはロキソニンなど解熱鎮痛剤を使いますが、その効能の通り解熱剤には体を冷やす性質があります。冷えて痛んでいるのに冷やすのは理屈から考えておかしいです。湿布も通常はヒヤッとする成分(メントール)を含んでおり、貼ったところの体温が下がります。要注意です。

    私たち漢方医にとって、冷えて痛むときは温めて治すのが当たり前です。温めて治す生薬の代表は附子(ブシ)です。桂枝加朮附湯、大防風湯などに入っています。また、附子だけを粉末にした附子末という製剤があり、当帰芍薬散に附子を追加して当帰芍薬散加附子とか、十全大補湯に追加して十全大補湯加附子みたいにして使います。附子の量(グラム数)を調整して温めながら痛みを取ります。

    附子の入った漢方薬は他にも芍薬甘草湯に加えるとぎっくり腰や生理痛に抜群に効きます。葛根湯に合わせて葛根加朮附湯という処方は頭痛肩こりに効きます。麻黄附子細辛湯という風邪薬にも附子が入っていますが、寒気と喉の痛みが取れて非常に喜ばれる処方の一つです。注意点として、子供にはあまり使いません。子供は火のかたまりのようにしていて冷えていないことが多いからです。西洋医学がなかった時代にはショック状態みたいな重篤な患者さんに四逆湯という附子の入った処方を使っていました。附子はとてもよく効く生薬ですが、もともとトリカブトという有毒な植物です。もちろん漢方製剤に含まれる附子は解毒処理してあるので心配いりません。

  • みかんやいちごの収穫・・という仕事もある

    よく、会社のストレスで動悸や吐き気がして体調不良で早退した。翌日、出勤しようとしたが、どうしても体が動かない、みたいな患者さんが来院されます。よく聞くと、上司がとても怒りっぽくて指導という名のパワハラを繰り返している場合が多々あります。ただ、私たちのところに来るのはパワハラされた、という被害者意識のある患者さんだけで、パワハラをしたとされる上司が来ることは極まれです。それでも、私の経験からすると、どちらにも言い分があり、どちらかが悪とレッテルをはれるようなかんたんな構図ではないことが多いと思われます。専門的に言うと、仕事にいけなくなった側にも何らかの問題があり、それは発達障害(自閉症スペクトラム、アスペルガー、多動・注意欠陥障害など)が多少なりとも存在して、組織になじまないことが多いと感じます。

    診断書を書いて2−3ヶ月休職すると、体調も良くなることが多いですが、復職しようとすると駐車場まではいけたが車から降りられなかったとか、仕事を再開しようとしたけど上司の顔を見た途端震えが止まらなくなってまた早退した、みたいなことになります。会社からは「もっと完全に治ってから出て来い!」といわれますが、完全に治ったかどうかは出勤してみないとわかりません。何しろ家では元気なのですから。

    結局、そういう場合、半日出勤など復職プログラムを準備してもらい、少しずつ慣らす以外にないのですが、殆どの場合上司との関係性に問題があるので、部署異動するか転勤しないとなかなか元通りの職場で元気に働ける場合は少ないように思います。そのような人におすすめするのは農家での収穫のバイトです。上司はいません。自然を相手に黙々とみかんやいちごの収穫をするのはストレスも少なく、達成感もあり、働きやすいと思います。当院では何人もこうして農家のお手伝いをして社会復帰した方がいます。