むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • 不安はなぜ起こるのか

    4月から新しい生活が始まったという方も多いかと思います。引っ越しや転勤、部署異動など、環境の変化は人それぞれですが、皆様もう慣れられましたでしょうか。

    新しい環境に馴染むには時間がかかるものです。少なくとも最初の一ヶ月ほどは、右も左もわからないことだらけで、心身ともに無理を重ねやすい時期だといえます。

    今からちょうど4週間後はゴールデンウィークにあたります。この時期になると、連休明けに増える「五月病」の患者さんのことが頭をよぎります。 新しい生活にようやく慣れ、連休で一息ついた途端、急に体が重くなり、会社や学校に行きたくないという状態に陥る。これが「五月病」と呼ばれるものです。

    なぜ人は、こうした不安や緊張、抑うつ状態に陥ってしまうのでしょうか。精神医学の領域では、こうした病態を説明する考え方の一つに「モノアミン仮説」があります。

    この仮説では、うつや不安は脳内の「セロトニン」などの物質が不足することに起因すると考えられています。そのため、セロトニンを増やす薬剤を投与することで症状の軽減を図ります。

    ここに「分子栄養学」的な視点を加えると、さらに理解が深まります。セロトニンの原料となるのは「トリプトファン」というアミノ酸です。このトリプトファンをセロトニンへと変換する過程には、ビタミンB群や鉄、亜鉛といった栄養素が不可欠です。 つまり、セロトニン不足を解消するためには、良質なタンパク質をしっかりと摂り、ビタミンやミネラルを適切に摂取することが極めて重要であると説明できます。

    興味深いことに、現代文明から離れて暮らすアフリカやパプアニューギニアの原住民の方々は、私たち現代人と比べて不安やうつを抱える人が圧倒的に少ないそうです。 これをモノアミン仮説で読み解けば、彼らが未精製の穀物や木の実を多く食べ、日光を浴びて日常的に体を動かす生活習慣が、ビタミンやミネラル、食物繊維を過不足なく補給させ、セロトニン不足を防ぐ要因になっていると考えられます。

    また、今読んでいる本にはもう一つ面白い視点が示されていました。それは、彼らが「過去」と「今」という時間軸の中に生きており、「未来」という時間をほとんど意識していないという点です。

    「まだ見ぬ未来のことを案じても仕方がない」というのは、誰もが納得できる道理です。人類が農耕を始める前の狩猟採集時代、人々にとって重要だったのは「今日、獲物を得て空腹を満たせるか」という一点であり、遠い将来を案じる必要はなかったはずです。

    しかし、農耕の開始をきっかけに、人は収穫を見越して種をまき、管理するという「未来への備え」を始めました。この「未来を予測する能力」は文明を発展させましたが、同時に人間に「不安」をもたらしました。受験、仕事、子育て、住宅ローン、親の介護……。私たちは、まだ起きていない未来のことを考えすぎるあまり、過度な不安を背負い込んでいるのです。

    飽食の時代にあり、娯楽にも事欠かない現代人。それなのに、過酷な環境で暮らしていたかつての狩猟民族よりも多くの不安を抱えて生きているというのは、なんとも不思議で、皮肉なものですね。

    今朝は桜吹雪で当院前は見事な桜の歩道となっていました