むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • 世の中にたえて桜のなかりせば

    今日も暖かい一日でした。昼に往診に出かけた際、空は見事に晴れ渡り、桜もまさに満開。春の陽光に映える姿が印象的でした。

    天気予報によると、今夜から雨になり、土曜日には激しく降るとのこと。いよいよこの桜も散ってしまうのではないかと、名残惜しく感じています。桜の花は美しいものですが、見頃が短く、あっという間に散ってしまうのが本当に惜しまれますね。 ふと当院の向かいの公園に目を向けると、桜の傍らで真っ赤なツツジが咲き誇っています。ツツジは雨に打たれても容易には散らず、長く見頃を保ってくれます。私個人としては、こうした力強い花の方が好ましく感じたりもします。

    『古今和歌集』に、在原業平が詠んだ有名な一首があります。 「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」 (もしこの世の中に、桜というものがなかったならば、春を過ごす人の心はどんなにのどかであっただろうか)

    桜が咲く時期というのは、「いつ開花するのか」「いつ満開になるのか」と心躍る一方で、「雨が降らないだろうか」「まだ散らないでほしい」と、どこか落ち着かない気持ちが続くものです。そんな、桜に翻弄される複雑な心境を見事に言い当てた歌ですね。

    実は、ちょうどこの時期は季節の変化の影響もあってか、精神的に不安定になられる患者さんも多く見受けられます。漢方の「陰陽五行」の理論において、春は方角では「東」、性質は「木」、そして五臓では「肝(かん)」に関連していると考えられています。

    ここでの「肝」は、現代医学の肝臓とは少し異なり、自律神経系を司り、気分を安定させる働きを持つ機能としての臓器を指します。春という季節は、この「肝」が高ぶりやすいために、気分が不安定になりやすいのだと理屈づけられているのです。

    この「肝」の気を抑え、高ぶった心を落ち着かせる代表的な処方が「抑肝散(よくかんさん)」です。私は、これに気のめぐりを助ける生薬を加えた「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」という処方を好んで用います。いずれも春特有のイライラや気分の高まり、それに伴う不穏な心身の状態を穏やかに整えてくれる優れた処方です。

    もちろん春に限らず、一年を通して重宝するお薬でもあります。職場や家庭のストレスで気持ちが休まらないという方にも非常に有効であるため、当院で処方する漢方薬の中でも、今や最も使用頻度の高い一剤となっています。