むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • 十徳ナイフは便利だが・・

    「器用貧乏」という言葉があります。何でもこなせるのに、これといった抜きん出た強みがないために重宝されない、といった意味で使われます。

    考えてみると、スマートフォンほど「何でもできる」という意味で器用な道具はありません。しかし、裏を返せば「専用の道具には永遠にかなわない」というのもまた事実でしょう。 例えば電卓です。経理の専門家は必ず自分にとって叩きやすい「マイ電卓」を持っています。本格的に文章を書いたり表計算をしたりする人は、やはりパソコンを使います。

    今日ふと思ったのは、タイマーや目覚ましのような単純な作業ですら、スマホでは「アプリを開いて設定する」という数秒のプロセスが意外と面倒に感じられる、ということです。その点、昔ながらのキッチンタイマーや目覚まし時計の方が、直感的で確実です。

    これに似たものに「十徳ナイフ」があります。折り畳みナイフにドライバー、缶切り、ハサミなどが一つにまとまった道具です。キャンプや旅行では非常に便利で、その多機能さには惚れ惚れしますが、プロはこれを仕事道具にはしません。料理には包丁を、ネジ締めには専用のドライバーを使います。つまり十徳ナイフは、便利さと引き換えに、個々の機能性をある程度妥協しているわけです。

    日本の企業は、社員をこの十徳ナイフのような「何でもできる人材」に育てたがる傾向があります。営業で入社したのに総務や開発に回され、「一通り経験してこい」と言われることも珍しくありません。一方、アメリカではその逆で、一点突破の尖った専門家が重宝され、何でもできる人は「これといった専門性がない」と見なされがちです。

    近年の日本の医療界も、アメリカに倣って数多くの専門医を養成してきました。大学病院などは臓器別の専門科ばかりです。かつての「内科医」は、消化器、呼吸器、循環器をすべて一人で診ていましたが、医学が高度に複雑化した今、それらを同じレベルで網羅し続けるのは非常にハードルが高くなっています。

    その反省から「総合診療科」が生まれましたが、日本ではまだ十分にシステム化された教育が行われているとは言えません。

    「本物のナイフ」と「十徳ナイフ」は、使うシチュエーションが異なり、それぞれに独自の価値があります。専門医と総合診療医も同様で、どちらも不可欠であり、互いに補完し合うべき存在です。それを理解したうえで、私たちはそれぞれの特性を適切に選び、活用していく必要があるのだと思います。