私が医師になりたての頃は、処方箋を書く際、薬の名前は各製薬メーカーが付けた商品名で記載していました。例えば、高血圧治療薬のニフェジピンであれば「アダラート」といった具合です。
その後、厚生労働省の方針により、医療費抑制とジェネリック医薬品の普及を目的として「一般名処方(成分名での処方)」が推進されるようになりました。診療報酬の仕組みにも組み込まれ、多くの医療機関で一般名処方が主流となっています。
商品名には製薬会社側の工夫があり、似た名称や紛らわしい名前を避けるよう設計されています。電子カルテでも最初の数文字で候補が絞られるため、取り違えのリスクは比較的低いものでした。
一方、一般名処方にはいくつかの課題があります。同系統の薬剤は名称が似通いやすく識別が難しくなること、類似した名称が多数存在するため入力・確認の際に混乱を招きやすいこと、そして名称自体が長くなることで視認性が低下することが挙げられます。
例えば、保湿剤として広く知られている「ヒルドイド」は一般名では「ヘパリン類似物質」となりますし、「アローゼン」という下剤は「センナ・センナ実顆粒」と表記されます。日常診療の中でも、一般名だけを見て直感的に薬剤を把握するのが難しい場面は少なくありません。
処方する側は、商品名を入力すると自動的に一般名へ変換されるシステムで対応できますが、一般名で記載された処方内容を一目で把握するのは容易ではなく、確認に時間を要することもあります。調剤を担う薬局においても、類似した名称が並ぶ処方箋を正確に扱うためには細心の注意が必要であり、現場の業務負担の一因となっていたと思われます。
そのような中、今回の診療報酬改定で一般名処方に対する加算が見直されることになりました。処方の記載方法による点数差がなくなることで、医療機関側には収入面での影響があるものの、今後は商品名での処方も選択しやすくなります。
商品名での記載に戻ることで、処方内容の視認性が向上し、取り違えリスクの低減や調剤業務の効率化が期待できます。患者さんにとっては直接的な変化を感じにくい部分ですが、安全性と効率性の観点から、今回の改定は現場にとって良い方向への変化だと感じています。
医療経営の面では「梯子を外された」とマイナスに評価する声もありますが、日々の診療の安全を守るという視点では、歓迎すべき改定ではないでしょうか。

下通り「天馬」