金曜日は、いつも少し暇なことが多いのですが、今日は患者数こそいつも通りだったものの、新規の難しい症状の相談が多く、時間がかかりました。おそらく3月頃というのは季節の変わり目で、暑かったり寒かったりするうえ、職場では異動が決まったり送別会があったりと、気ぜわしい時期だからでしょう。そうした環境の変化の中で自律神経が乱れ、睡眠の質が悪くなったり、体調に異変をきたしたりすることがあります。胸が痛い、動悸がするなど、さまざまな症状で来院される方が増えます。「何か不調のきっかけはありましたか?」と尋ねても、はっきりした原因がわからないことのほうが多いようです。中には、「子どもが今年受験で、それが気になって眠れなくなった」と、原因が明確な方もいますが、試験は終わったのに体調不良が続いている、みたいなケースもよく見られます。
自律神経の乱れは検査で明確に診断するのが難しく、決定的な治療薬もありません。そのため、私はまず患者さんの状況を詳しく問診し、どのような場面でどのような症状が出るのかを把握します。そして、漢方処方を考える際には、気の不足がないか、気の巡りが悪くなっていないか、温めると軽減するのか悪化するのか、など寒熱・虚実と気血水のバランスを総合的に判断し、どこに不調が生じているのかを探ります。この推論が正しければ、漢方薬は驚くほどよく効きます。ちょうど、鍵と鍵穴のように、漢方薬が患者さんの不調の部分にジャストフィットする感覚です。
実は、西洋薬を処方する際も、私は漢方的な視点を取り入れています。「この薬は気を補う」「この薬は気の巡りを改善する」などと考えながら使うことで、より適切な処方が可能になります。例えば、血圧の治療薬にも、脈を速くするものや遅くするものがあり、それぞれ異なる特徴があります。そのため、患者さんの自律神経のバランスや寒熱・虚実を考慮すると、適した薬が自然と絞られてくるのです。
診察室での患者さんの行動も、虚実を判定する重要な材料になります。例えば、診察時に椅子を引いて私から距離を取って座る人もいれば、ぐっと近寄って座る人もいます。また、明るく元気に大きな声で話す人もいれば、小さな声でささやくように話す人もいます。こうした情報も処方選びの参考にしています。私たち漢方専門医は、患者さんの見た目やしぐさ、話し方などを通じて判断する「望診」を、「問診」と並行して行うことで、より適切な治療を提供しています。