「80歳の壁」などの著書で話題の和田秀樹先生をご存じでしょうか?私も、先生の本は興味深く拝読し、いくつかはクリニックの本棚においています。和田先生の著書や週刊誌の記事では、「血圧やコレステロールは下げなくても大丈夫」という持論が繰り返し述べられています。このような意見は、いわゆる生活習慣病の薬を嫌がる方々にとって魅力的に映るのでしょう。「薬を飲まなくていい」という言葉には、多くの人が飛びつきます。
実際、和田先生自身もご自身の血圧や血糖値が高いことを「放置している」と書かれています。しかし、循環器内科の専門家として意見をすると、血圧や血糖値はしっかり管理しておいたほうがよいです。この考えには、世界中の大規模臨床研究に基づいたデータが裏付けられています。これらの研究では、血圧やコレステロールを適切に管理することで、心筋梗塞や脳卒中といった心血管イベントの発生率が何%減るのか、また心血管死をどの程度予防できるのかが明確に示されています。
こうした研究では、統計学を駆使して次のような検討が行われています:治療を受けたグループと受けなかったグループの比較、血圧やコレステロール値をどのレベルまで下げるのが最適か、副作用を最小限にする治療の範囲は?
統計的なデータが示す方向性は非常に重要ですが、これはあくまで「平均的な結果」を示しているに過ぎません。個々の症例になると、話は複雑になります。例えば、高コレステロール血症の患者を10年間追跡調査した研究があったとします。その結果、治療を受けた患者群では心筋梗塞の発生率が低下しました。このデータを基に、「100人治療すると、4人の心筋梗塞が予防できた」とすると、1人を救うためには25人を治療する必要があることが分かります。このように、治療によって1人の患者を救うのに必要な人数を NNT(Number Needed to Treat) と呼びます。
NNTが20前後であれば、医学的には非常に優れた治療法と評価されます。多くの方に推奨できる水準です。しかし、ここで立ち止まって考えてみましょう。このデータでは、25人に1人が「治療してよかった」と思える結果を得たわけですが、逆に言えば24人にとっては効果が目に見えない結果だったとも言えます。この点に疑問を抱く人もいるでしょう。
とはいえ、この確率を「宝くじ」と比較すると、その価値は明確です。宝くじの当選確率よりもはるかに高い確率で命を救う可能性がある治療を選ばない理由はありません。「自分は大丈夫」と思い込んで治療を拒否することが、逆に「ババを引く」リスクを高めてしまうかもしれません。
生活習慣病の治療は、目に見える即効性がない場合も多いですが、その積み重ねが将来のリスクを大きく減らします。和田先生の持論にある程度の真実が含まれているとしても、現代医学が示す統計的なデータに基づいて、適切な治療を受ける重要性を忘れてはなりません。自分の健康を守るために、「自分だけは大丈夫」と思い込むのではなく科学的な根拠に基づいた選択をしていただきたいと思います。
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