むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • 検査値の正常範囲とはなにか?

    私は大学院で学位論文の研究をする際、大学病院の中央検査部で、臨床検査医学の部署に所属していました。そこは、病院全体の検査データが集まる場所で、検査データの解釈について研究していました。

    例えば、人間ドックで検査を受けると、数値が基準範囲内か範囲外かによって「再検査」マークがつくことがあります。では、皆さんは「基準範囲」とは何かを考えたことはありますか?健診で用いられる「基準範囲」は、主に健常者(病気がないとされる人々)のデータをもとに、ある計算方法で導き出されています。多くの健常者の平均値から±2標準偏差の範囲を取り、その中に入る数値を「基準範囲内」とみなしています。

    この「標準偏差」という指標は、データのバラツキを表しています。人の体の状態には個人差があり、健康な人でも数値は少しずつ異なります。標準偏差はそのバラツキをある程度反映するために使われているのです。つまり、健常者のデータに基づいて「平均値」を算出し、その平均値から±2標準偏差の範囲を「通常、健康な状態にあるだろう」という目安にしているのです。これが「基準範囲」です。

    少し数学的な話になりますが、「正規分布」という統計モデルでは、±2標準偏差の範囲内に全体の約95%のデータが入ることが知られています。ほとんどの健常者がこの範囲内に収まるため、医療現場では一般的に±2標準偏差を「基準範囲」として利用しています。逆に、健常者でも5%程度の人はこの範囲に入らないことになります。また、基準範囲は集団データをもとにしているため、個人の健康状態を完全には反映しない場合があります。そのため、検査データは一つの数値だけで判断せず、複数のパラメータを総合的に見て判断することが重要です。

    私が関心を持っている分子栄養学では、採血データを生化学的な観点からより細かく分析することがあります。この分野では、通常の±2標準偏差で表される基準範囲とは異なる基準で解釈を行うこともありますが、まだ研究段階の部分も多く、医療関係者の間でも見解が分かれる場合があります。

    まとめると、基準範囲は数学的に統計処理された指標であり、健常者であっても必ずしも全員がその範囲に収まるわけではありません。気になる点があれば、自分で心配するよりも主治医に相談してみてください。

    夕暮れの味噌天神(日が暮れていたのにiPhoneで昼のように明るく撮れました)