むらかみ内科クリニック

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  • ロキソニンとムコスタはなぜセット処方されるのか

    鎮痛剤でロキソニン(ロキソプロフェン)をもらうときに、ムコスタ(レバミピド)という胃薬がセットで処方されることが多いと思います。世の中に胃薬はたくさんある中で、なぜムコスタ(レバミピド)が選ばれているのかをご存じの方はあまりいないでしょう。

    実は、私が20年ほど前に大学院生だったころ、炎症学の基礎実験をしていました。急性呼吸不全や敗血症の病態解明と治療法の開発に取り組んでいたのですが、その流れで、鎮痛剤やストレスから引き起こされる胃粘膜障害(胃潰瘍)のメカニズムについても研究を始めました。

    その結果、胃粘膜障害には胃酸が関与しているのは当然ですが、白血球の活性化が粘膜障害の引き金になっていることがわかりました。多くの胃薬を試した中でも、ムコスタ(レバミピド)は白血球の活性化を抑制し、抗炎症効果を発揮することがわかりました。鎮痛剤やストレスで引き起こされる胃粘膜障害に対して非常に効果的だということを実証しました。私はこの研究結果を論文にまとめ、日本全国だけでなく、ウィーンやハワイの学会でも発表しました。これが、今でもロキソニンと一緒にムコスタを処方される理論的背景となっています。

    ちょうどその頃、プロトンポンプ阻害剤(ランソプラゾールなど)が開発され、胃潰瘍の治療が劇的に改善されました。また、ピロリ菌の存在も発見され、ピロリ菌の除菌が胃がん予防に繋がることがわかりました。当時は、消化器内科の先生たちがこれらの新発見に夢中で、鎮痛剤による胃粘膜障害の研究を行っている人はほとんどいなかったのです。

    最近、息子が帰省した際に、私の大学院時代の研究の話をしていたところ、「そういえば、この論文はムコスタ(レバミピド)の添付文書に引用されているよ」と思い出し、検索してみたら今でも使われていました。息子に少し自慢できて、嬉しかったです。

    私は胃カメラも得意だったので、一時は消化器内科に進むことも考えました。しかし、集中治療分野でアメリカに留学することになり、消化器内科には進みませんでした。人生にはいろいろな分岐点があり、決断の時があります。今振り返ると、あのとき消化器を選ばなかったのは大きな決断だったと思います。もっとも、元々心臓(循環器内科)の方が好きだったことが背景にありますが…。

    リンク>ムコスタの添付文書(よかったら見てください)

     

     

    今日はナスとケールとひよこ豆のカレーです。夏はカレーに限ります。ご飯は見えないくらいちょっと。