むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • 高齢者医療に思うこと

    老人ホームに入居している高齢者で通院できない場合、訪問診療という方法があります。当院からは近くの学研ココファンその他いくつかの施設に定期的に訪問して100名近い方の健康管理をしています。ホームには看護師さんがいる場合もありますが、基本は介護士さんと事務職員です。さほど質の高い医療を提供できる環境ではありません。あくまでも居住空間ですから、そこに看護師さんがいて安心、というレベルの医療です。そこへ、わたしたちクリニックから訪問して診察し、薬を出したりするわけですが、我々医療サイドのスタッフも誤解しやすいのが、施設がちょっとした病院(入院施設)のような勘違いです。

    病院は、病気と徹底的にたたかう場であり、何もしないのは負けと考えます。しかし、老人ホームなどでは何もしないのが勝ちで、あれこれ介入するのが負けです。介入すればするほど日常生活が病人みたいなあつかいになり、薬を増やすほど副作用で臓器障害が進んだりします。私の理想とする老人ホームの医療は「何もしないこと」なのです。これが結構難しくて、つい病院での仕事の癖が出てしまうので、検査したい、薬をもっと出したい、点滴したい、などと言う欲求を一生懸命自制しています。それは単なる自己満足に過ぎないからです。

    高齢者は探せば次々と悪いところが見つかります。病院だと、その病気と100%向き合って治療するのが仕事ですが、訪問先では楽しく穏やかな生活が理想で、我々がズカズカと入っていって高齢者を病人に仕立て上げてはいけないと思うのです。あくまで脇役に徹する。さっと行ってさっと帰る。短時間で必要最小限で、しかも生活の質が保たれるだけの十分な医療を提供する。何年も高齢者医療に携わっていますが、バランスがとても難しいと思います。