むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • 煎じ薬

    漢方を専門にしていると、時々煎じ薬が欲しいという希望で来院される患者さんがおられます。煎じ薬の処方というのは、生薬を一つずつ何グラムと処方箋に書いて、レシピを完成させます。ちょうど料理の本で卵1個、キャベツの葉何枚、塩小さじ1といった感じです。これを書くとき、処方の生薬の種類とグラム数をきちんとしないと、とんでもないものができてしまいます。料理に例えるなら、カレー粉を10種類以上のスパイスから調合するようなものです。好みで辛さを調節するのはいいとして、基本となるスパイスとその配合比率はあまり変えてはいけません。そこをいじってしまうとカレーでなくてハヤシライスみたいになったりしてしまいます。

    幸い漢方のレシピには2000年以上の歴史があります。何をどのくらいの配合で入れるか、また、患者さんの病態にあわせて桂枝(シナモン)を入れたり、生姜を乾姜(蒸して干した生姜)にしたりなど、いろいろなアレンジの経験の積み重ねがありますから、それを使わない手はありません。

    しかし、そんなことをやっていては、1日に何人も患者さんが見れません。昭和30年代にインスタントコーヒーをヒントに小太郎という漢方メーカーがフリーズドライの漢方薬を作ったのが今のエキス顆粒の始まりだそうです。今では9割以上がエキス剤となっており、ツムラが最大手ですが、小太郎も健在です。とてもいい品質のものがあります。

    問題は、このような出来合いのエキス製剤では対応できない難しい症例があるということです。私たち漢方専門医はエキス剤を何種類か組み合わせることにより病態にあわせた処方を作り上げますが、それでもあと一歩及ばない時、ジレンマを感じます。そういう中で、生薬を自ら調合するという素晴らしいやり方があるのです。完全オーダーメイドです。今日も、難病患者さんが生薬の処方を希望してこられました。古典のレシピをもとに、患者さんに必要な生薬を加減しながら処方を組み立てます。頭の中は生薬同士の相性や味や効能について考えに考えます。欲張ると失敗するので、シンプルにできるだけ少ない生薬で最大の効果を狙います。漢方医の醍醐味です。問題は、このような生薬の処方箋を受けてくれる保険調剤薬局が(私の知る限り)熊本市内には2つしかないことです。また、取引のあった福岡の生薬卸さんが廃業されるという話を聞きました。とても残念なことです。

    当クリニックでは、難病その他なかなか治らない疾患に対して、通常の漢方エキス製剤で対応できない場合は生薬による完全オーダーメイドの処方をいたします。保険適応ですから、よく分からない健康食品にべらぼうなお金を使うよりいいと思います。

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