むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • 臨床家 VS 研究職

    私はアメリカに留学していたとき、テキサス大学の麻酔科集中治療部で急性呼吸不全の治療を研究していました。今、新型コロナ肺炎で集中治療室に入っている人たちの多くは呼吸不全で人工呼吸管理をされていると思いますが、まさにそういった場合の病態と治療法に関する研究をしていたのです。当時、私はアメリカでは研究職だったため患者さんを治療することはできませんでした。そこで、日本に帰って患者さんの治療に直接携わる医師としての仕事に戻るべきか、アメリカで研究一筋頑張るかという葛藤がありました。研究者は患者さんを直接治すことはありませんが、大発見をするとその功績で間接的にですが世界中の人の命を救うことができると考えていました。

    結局私は日本に帰り、医師として患者さん一人ひとりの診療の道を選びました。今考えると、それで100%満足な人生です。一方、私が当時研究していた呼吸不全の治療を勧めていたら、きっと今頃新型コロナ肺炎の治療に大きく貢献していたと思います。当時私の発表した研究成果はアメリカで特許となってアメリカの製薬会社と共同で臨床応用の計画がありました。しかし、私があまりビジネスに貪欲でなく、リサーチそのものが好きだったため、その成果がその後どうなったか記憶が曖昧になっています。特許料として何千ドルかもらったのは記憶にあります。

    もったいないことをしたという気もしますが、もったいないのはそれがビジネスにつながらなかったということではなく、重症の呼吸不全を治療する方法を私達の研究グループはは知っていたし、おそらく今でもその方法論が通用すると思うところです。私がアメリカに残って研究していたら、新型コロナ肺炎の死亡率がもっと下がったかもしれないと思います。今となっては、研究の第一線を離れているので、たんに妄想と言われるかもしれませんけどね・・。