むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • 薬のNNT

    NNTという言葉がありますが、専門用語なのでちょっと難しいかもしれません。NNTとはNumber Needed to Treatの略です。これは、ひとりの命を救うのに何人に処方(治療)しないといけないかという治療確率を表した数値です。例えば、私が大学院時代に研究した学位論文のテーマがプロテインCという抗凝固物質の抗炎症作用だったのですが、敗血症性ショックに投与すると死亡率を低下させるという結果でした。のちにアメリカでリリーという製薬会社が遺伝子組み換え技術を使ってプロテインCを大量生産することに成功し、救急現場で大々的に使えるようになりました。その時、20人の敗血症性ショックに投与すると1人の命が助かる(NNT=20)という成果でした。

    例えば、コレステロールの薬。健康診断で一定の数値を超えていたら治療を始めましょうということになるわけです。そのコレステロール治療薬のNNTは死亡に関しては100以上です。ということは、せっせとコレステロールの薬を処方して飲んでもらっているのですが、私の患者さんでコレステロールを100人治療して1人は飲んでいたおかげで死なずに済んだということになるわけです。ということは、残りの99人は飲んでも飲まなくても結局一緒な訳です。ただ、飲んでいたおかげで死なずに済んだのが自分のことかもしれない(確率1%)というふうに理解しないといけません。我々は、そういう治療効果を意識して本当に治療に値するかどうかは真剣に悩まないといけないと思います。このNNTのデータを客観的に見て私が思うには90歳以上ではコレステロールの治療は意味がありませんが、世の中の多くの現場ではなかなかそうもいかないのが現実です。みんな科学的でなく感情的だからです。

    一方、若年性高コレステロール血症の場合は家族性の可能性が高く、遺伝的に異常がある可能性が高いため、非常に心疾患を合併しやすくなっています。この場合は治療のメリットは大きいため、ためらわずに若いうちから薬を飲んでコントロールすべきだと思います。