むらかみ内科クリニック

院長ブログ

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  • 個々の医療、集団の医学

    私たち臨床家にとっての医療は目の前に座っている患者さん一人に対するベストの治療法を考えるという意味で「個々の医療」です。一方、学会などで発表される「医学」は集団の医学です。例えば、1万人の糖尿病患者に新しい治療薬と従来の治療薬を振り分けて使ったところ、新しい薬は糖尿を改善するばかりでなく心臓発作による死亡率を30%低下させた、とかそういう集団を相手にした話になります。西洋医学はこのような集団の医学で、統計処理して差があることを証明できた場合にはじめて有効であるという証拠(エビデンス)があるというお墨付きを与えます。

    一方、漢方の世界に多いのは、このような患者にこういう治療をしたら効いたという症例報告です。個々の成功例なので、一般化させるのは難しいのですが、ベテラン医師のカンは統計学にもまさる分析力を持っています。一つの症例報告を読むことでそれが自分の目の前にいる患者に応用できるかどうか瞬時に判断できます。

    こう暑いと塩分が欲しくなりますが、高血圧の患者さんには塩分制限を口うるさく指導します。しかしこれも個別に対応した話でないのです。実は、塩分感受性(塩に反応して血圧が上がりやすいかどうか)は遺伝子レベルで決まっています。塩分を制限したほうがいい人と、制限しなくてもいい人がいて、それは生まれながらに決まっているのですが、現段階で検査のしようがないために統計的に意味があるという「エビデンス」に基づきみんなに塩分制限をしましょうといっているだけなのです。本来の医療というのは個々の患者さんに対してベストの治療法と予防法があるはずで、それを追求すべきものであって、必ずしも統計に基づいたガイドライン通りにすればいいというわけではないと思っています。

    上江津湖